過去問 意思表示
民法第95条本文は、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と定めている。これに関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。
(正)
動機の錯誤は、表意者が動機を意思表示の内容とし、かつ明示的又は黙示的に表示した場合に限り、法律行為の要素となります(民法95条2項)。
本肢は、表意者が相手方に明示的に表示しているので法律行為の要素となります。
民法95条2項
前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
民法94条第2項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は「善意の第三者に対抗することはできない」と定めている。次の記述が、民法の規定及び判例によれば、同項の「第三者」に該当しない場合は〇、該当する場合は×を答えよ。
Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、Bが甲土地の所有権を有しているものと信じてBに対して金銭を貸し付けたC
(○)
CはBに金銭を貸し付けていますが、これは単にBに土地があるという信用の元になされた行為であり、法律上の利害関係があるとは言えません。
Cのように仮装名義人に金銭を貸し付けた者は単なる一般債権者であり「第三者」には該当しません。
A所有の土地につき、AとBとの間で売買契約を締結し、Bが当該土地につき第三者との間で売買契約を締結していない場合に関する次の記述が、民法の規定において正しいか否かを答えよ。
Aの売渡し申込みの意思は真意ではなく、BもAの意思が真意ではないことを知っていた場合、AとBとの意思は合致しているので、売買契約は有効である。
(誤)
表意内容と自身の真意が異なることを自覚しながら意思表示を行うことを「心裡留保(しんりりゅうほ)」といいます。心裡留保による意思表示は原則として有効ですが、相手方がその真意を知り、または知り得た場合は無効となります 。
本肢のケースでは、意思表示の相手方であるBがAの心裡留保につき悪意であるため、売買契約は無効となります。
Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。
この場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。
Bの債権者である善意のCが、甲土地を差し押さえた場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
(正)
判例では、不動産の仮装譲受人から抵当権の設定を受けたもの(大判大4.12.17)や仮装債権の譲受人(大判昭6.6.9)も「第三者」に該当するとしています。
つまり、虚偽表示の目的物を差し押さえた債権者も第三者に該当します。
したがって、Aは善意のCに対して売買契約の無効を主張することはできません(仮想譲受人の差し押さえを行っていない、単なる債権者は利害関係があるとは言えず「第三者」にすら該当しません)。
A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
AB間の売買契約が、AとBとで意を通じた仮装のものであったとしても、Aの売買契約の動機が債権者からの差押えを逃れるというものであることをBが知っていた場合には、AB間の売買契約は有効に成立する。
(誤)
相手方と通じてウソの意思表示をすることを通謀虚偽表示といいます。通謀虚偽表示は、相手方の善意・悪意を問わず無効となります
AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがDに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実を知らなかったとしても、Dが第三者の詐欺の事実を知っていれば、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。
(誤)
第三者の詐欺は、相手方が悪意である場合にのみ取り消すことができます(民法96条2項)。
本肢の場合、Bは第三者の詐欺の事実を知らずにAから甲土地を購入したので、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができません。これは、Bから甲土地の転売を受けた転得者Dの善意・悪意に関係ありません。
民法第95条本文は、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と定めている。これに関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、原則として自らその取消しを主張することができない。
(正)
表意者に重大な過失があるときは、表意者は意思表示の取消しをできません。
相手方が悪意または重過失のときは、表意者は意思表示の取り消しを主張できる。
民法95条3項
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
1 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
2 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があったとしても、Aに重大な過失があって取り消しをすることができない場合は、BもAの錯誤を理由として取り消しをすることはできない。
(正)
錯誤による意思表示の取り消しは、錯誤に陥った者しかすることができません。
また、表意者に重大な過失があったときには、一部の場合を除いて錯誤による取り消しを主張できません(民法95条3項)。
そして判例では、表意者が取り消しをすることができない場合は、第三者も表意者の錯誤を理由として取り消しをすることはできないとしています(最判昭40.9.10※無効→取り消し)。
よって、Aに重大な過失があって取り消しをすることができない場合は、第三者であるBも同様に取り消しできません。
Bは、代金をローンで支払うと定めて契約したが、Bの重大な過失によりローン融資を受けることができない場合、Bは、錯誤による売買契約の取り消しをすることはできない。
(正)
錯誤が表意者の重過失によって生じた場合は、原則として錯誤による取消しを主張することができません(民法95条3項)。
ローンで支払うという契約上、ローン融資を受けられないという事態は要素の錯誤に当たりますが、そこにはBの重過失があったので錯誤による売買契約の取り消しはできません。
Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Cが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受けた場合は、所有権移転登記を受けていないときでも、Cは、Aに対して、その所有権を主張することができる。
(正)
善意無過失の第三者に対しては通謀虚偽表示による無効を対抗できません(民法94条2項)。
したがって、Aは、Cに対して、AB間の売買契約が無効であることを対抗することができず、AからBへの所有権の移転がなかったことを対抗することができません。
有効なA→B→Cの転々譲渡と考えると、BとCは当事者、AとCは前主後主の関係となります。
Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。この場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。
甲土地がBから悪意のCへ、Cから善意のDへと譲渡された場合、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない。
(正)
Dは、AB間の虚偽表示について善意の転得者となります。転得者も当事者以外のものである以上、「第三者」に含まれます。
よって、Aは、虚偽表示による無効を善意の第三者であるDに主張することはできません。
民法94条第2項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は「善意の第三者に対抗することはできない」と定めている。
次の記述が、民法の規定及び判例において、同項の「第三者」に該当しない場合は〇、該当する場合は×を答えよ。
Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、B名義の甲土地を差し押さえたBの債権者C
(×)
Cのように虚偽表示の目的物を善意で差し押さえた譲受人の債権者は「第三者」に該当します。
Aが、Bの詐欺によって、A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aは、Bが詐欺をしたことを、Cが知り又は知ることができたときでないと、売買契約の取消しをすることができない。
(正)
第三者の詐欺により意思表示を行った場合、意思表示の相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができた(悪意/有過失=善意無過失でない)場合に限り、意思表示を取り消すことができます。
よって、Aは、Bが詐欺をしたことにつき、Cが悪意(知り)又は知ることができた(有過失)ときでなければ売買契約を取り消すことはできません。
民法94条第2項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は「善意の第三者に対抗することはできない」と定めている。次の記述が、民法の規定及び判例において同項の「第三者」に該当しない場合は〇、該当する場合は×を答えよ。。
Aが所有する甲土地につき、AとBの間に債権債務関係がないにかかわらず、両者が通謀の上でBのために抵当権を設定し、その旨の登記がなされた場合に、Bに対する貸付債権を担保するためにBから転抵当権の設定を受けた債権者C
(×)
Cは「第三者」に該当する。
CはAB間の虚偽表示による抵当権設定登記に基づき、Bから抵当権の転抵当を受けています。このケースではCは「第三者」に該当し、AB間の抵当権設定登記が虚偽表示により無効とされた場合でも、Cは転抵当権の設定を対抗できます。
AとBとの間で令和2年7月1日に締結された売買契約に関する次の記述が、民法の規定において、売買契約締結後、AがBに対し、錯誤による取消しができる場合は〇、できない場合は×を答えよ。
Aは、自己所有の自動車を100万円で売却するつもりであったが、重大な過失によりBに対し「10万円で売却する」と言ってしまい、Bが過失なく「Aは本当に10万円で売るつもりだ」と信じて購入を申し込み、AB間に売買契約が成立した場合
(×)
AはBに対して錯誤による取り消しを主張できない。
Aは意思に反して「10万円で売る」と意思表示しているので、契約上重要な部分に表示に錯誤が認められます。
表意者Aに重大な過失があり、相手方Bは善意無過失ですから、Aは錯誤による取消しができません。
Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。
この場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。
善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間売買契約の無効をCに主張することができない。
(正)
民法第94条(虚偽表示)に関して問われています。
同条第1項には「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」と規定されており、同条第2項には「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定されています。
つまり、Cが善意である以上、AはCに対して売買契約の無効を主張することはできません。
また、判例によるとCは善意の第三者であればよく、対抗要件となる登記を備えている必要はありません。
民法94条
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
A所有の土地につき、AとBとの間で売買契約を締結し、Bが当該土地につき第三者との間で売買契約を締結していない場合に関する次の記述が、民法の規定において正しいか否かを答えよ。
Aが、Cの詐欺によってBとの間で売買契約を締結した場合、Cの詐欺をBが知っているか否かにかかわらず、Aは売買契約を取り消すことはできない。
(誤)
第三者による詐欺行為により意思表示を行った場合、意思表示の相手方が悪意/善意有過失の場合に限り、当該意思表示を取り消すことができます。
本肢のケースでは、Bが悪意(知っている)または有過失(知らないことにつき過失がある)であればAは売買契約を取り消すことができます。よって、記述は誤りです。
Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aが、今なら課税されないと信じていたが、これをBに話さないで売却した場合、後に課税されたとしても、Aは、この売買契約を錯誤によって取り消すことはできない。
(正)
意思表示の動機に錯誤があった場合には、その動機が相手方に表示されていた場合に限り取消しの対象となります(民法95条2項)。
本件では、AはBに「課税されないので売る」という事情を話していないので動機が表示されていたとは言えません。よって、取り消すことはできません。
AがBに対し土地の売却の意思表示をしたが、その意思表示は錯誤によるものであった。
この場合の次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
錯誤を理由としてこの売却の意思表示が取消しとなる場合、意思表示者であるAに重過失があるときは、Aは自ら取り消すことはできない。
(正)
表意者に重過失があるときは錯誤取り消しを主張することはできません。
【表意者に重過失があっても取り消しを主張できる場合】
①相手方が悪意・重過失場合
または
②相手方が同一の錯誤に陥っていた場合
Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。
この場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。
善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約(貸主B、借主C)を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
(誤)
Bとの間で乙建物の賃貸借契約を結んでいるCは、甲土地の契約に関しては関係がないため、第三者に該当しない。
虚偽表示の場合の取り消しは、善意の第三者に対抗できないが、この場合のCは第三者ではないため、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができる。
最判昭57.6.8
土地の仮装譲受人(B)がその土地(甲土地)上に建物(乙建物)を建築して、これを他人(C)に賃貸した場合。
他人(C)は、仮装譲渡された土地(甲土地)については法律上の利害関係を有するものとは認められないから、民法94条2項所定の「第三者」にはあたらないと解するのが相当である。
つまり、もしCが「善意」であっても「第三者」ではないので、AはAB間の売買契約の無効をCに対して主張できます。
民法94条第2項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は「善意の第三者に対抗することはできない」と定めている。
次の記述が、民法の規定及び判例において、同項の「第三者」に該当しない場合は〇、該当する場合は×を答えよ。
AとBが通謀の上で、Aを貸主、Bを借主とする金銭消費貸借契約を仮装した場合に、当該仮装債権をAから譲り受けたC
Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Eが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受け、所有権移転登記を受けていない場合で、Aがこの土地をFに譲渡したとき、Eは、Fに対して、その所有権を主張することができる。
(誤)
Eは、Fに対して、その所有権を主張することができない。
善意無過失のEはAに対して所有権を主張することができます。
また、所有者Aから土地の譲渡を受けたFも同様にAに対して所有権を主張することができます。
この場合、EとFは対抗関係になり、先に登記を備えた方が他方に所有権を主張することができます。
AがBに対し土地の売却の意思表示をしたが、その意思表示は錯誤によるものであった。
この場合、次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
錯誤が、売却の意思表示の内容の重要な部分に関するものであり、法律行為の要素の錯誤と認められる場合であっても、この売却の意思表示を取り消すことはできない。
(誤)
錯誤の内容が重要。
【要素の錯誤】
意思表示の重要な部分に関する錯誤があること。
要素の錯誤であるときは、原則として意思表示を取り消すことができます。
錯誤による無効は、売主の勘違いについて、重過失(重い不注意)がないこと、かつ、要素(契約の重要な部分)の錯誤である、という2つの条件を満たした時のみ主張できます。
※ 表意者に重大な過失がある場合は無効を主張できない。
・動機の錯誤
意思と表示は合致していて間違いがないが、そもそもの動機部分で勘違いしていること
動機の錯誤は本人が勝手に思い込んで起きているので、原則取り消しはできない。
契約時にその動機を明示か黙示していれば、取り消しを主張できる。
・表示の錯誤
意思と表示がバラバラで、意思を表示する際に勘違いしてしまった場合
Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aが、今なら課税されないと信じており、これをBに話して売却した場合、後に課税されたとしても、Aは、この売買契約を錯誤によって取り消すことはできない。
(誤)
意思表示の動機に錯誤があった場合には、その動機が相手方に表示されていた場合は取消しの対象となります(民法95条2項)。
本件では、AはBに「課税されないので売る」という事情を話しているので動機が表示されていたと言える。よって、取り消しができる。
AがBに対し土地の売却の意思表示をしたが、その意思表示は錯誤によるものであった。
この場合、次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 錯誤が、売却の意思表示の内容の重要な部分に関するものであり、法律行為の要素の錯誤と認められる場合であっても、この売却の意思表示が無効となることはない。
- 錯誤が、売却の意思表示をなすについての動機に関するものであり、それを当該意思表示の内容としてAがBに対して表示した場合であっても、この売却の意思表示が無効となることはない。
- 錯誤を理由としてこの売却の意思表示が無効となる場合、意思表示者であるAに重い過失があるときは、Aは自らその無効を主張することができない。
- 錯誤を理由としてこの売却の意思表示が無効となる場合、意思表示者であるAがその錯誤を認めていないときは、Bはこの売却の意思表示の無効を主張できる。
1 (誤)
設問の場合、要素に錯誤があり、かつAは重大な過失がないので、無効となり得ます。
2 (誤)
基本的には、動機の錯誤については無効となることはありません。
しかし、表意者(A)が相手方(B)に内容を表示していた場合は、無効となり得ます。
したがって、「無効となることはない」としている本問は誤りとなります。
3 (正)
表意者(A)に重大な過失があった場合は、主張を無効とすることができません。
よって、本問は正しい記述となります。
4 (誤)
錯誤の無効は、表意者を保護するための制度です。
したがって、表意者が無効を主張しない限り、無効が認められることはありません。
AとBとの間で令和2年7月1日に締結された売買契約に関する次の記述が、民法の規定において、売買契約締結後、AがBに対し、錯誤による取消しができる場合は〇、できない場合は×を答えよ。
Aは、自己所有の時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、Bに対し「手元にお金がないので、10万円で売却したい」と言ったところ、BはAの言葉を信じ「それなら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
(×)
Aは誤った思い込みをしていますが、意思と意思表示は合致しているので錯誤はありません。この場合、取引の安全に配慮して相手方Bを保護するため、Aは錯誤による取消しをすることができません。
A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述が、民法の規定及び判例において、正しいか否かを答えよ。
Aは甲土地を「1,000万円で売却する」という意思表示を行ったが、当該意思表示はAの真意ではなく、Bもその旨を知っていた。
この場合、Bが「1,000万円で購入する」という意思表示をすれば、AB間の売買契約は有効に成立する。
(誤)
AB間の売買契約は有効に成立しない。
自分の真意とは異なることを自覚しつつ偽の意思表示をすることを心裡留保といいます。心裡留保の場合、相手方が善意であれば当該契約は有効、真意でないことを知り(悪意)、または知ることができた(有過失)ときは無効となります。
AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。
(正)
民法第95条本文は、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と定めている。これに関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない。
(誤)
動機の表示が、しぐさなどの黙示的な性質であったとしても、事実関係によっては法律行為の要素となることがあります。
最判平1.9.14
協議離婚に伴い、夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をした。
後日、夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した。
この契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配して、これを気遣う発言をしており、妻も自己に課税されるものと理解していた。
このように、判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、夫の右課税負担の錯誤に係る動機は、妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべきである。
Aが、Bの詐欺によって、A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aは、詐欺に気が付いていたが、契約に基づき、異議を留めることなく所有権移転登記手続をし、代金を請求していた場合、詐欺による取消しをすることはできない。
(正)
取り消すことができる行為について、自身の債務を履行したり相手方に履行を請求したりすると、その行為を追認したとみなされます(民法125条1号・2号)。
よって、契約の履行(所有権移転登記手続き)と履行の請求(Cに対する代金請求)を行ったAは、それ以降、詐欺による取消しをすることはできません。
AがBに対し土地の売却の意思表示をしたが、その意思表示は錯誤によるものであった。
この場合、次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
錯誤が、売却の意思表示をなすについての動機に関するものであり、それを当該意思表示の内容としてAがBに対して表示した場合であっても、この売却の意思表示を取り消すことはできない。
(誤)
動機の錯誤であっても、当該動機が表示され意思表示の内容となっている場合は取り消すことができます。
意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
Aは、自己所有の時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み、Bに対し「贋作であるので、10万円で売却する」と言ったところ、Bも同様に贋作だと思い込み「贋作なら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
(○)
相手方が共通に錯誤に陥っていた場合(2人ともが勘違いをしていた場合)は取り消しができる。
2人ともが勘違いをしていなければ、そもそも成立していなかった契約だから。
「10万円で売る」という意思表示をするに至った動機に思い違いがあり、それが相手方に表示されているので動機の錯誤があります。
Aの過失の有無は明らかではありませんが、Bも同一の錯誤(共通錯誤)に陥っていたので、Aは錯誤による取消しができます。
民法95条
1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
① 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
② 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
① 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
② 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
Aが、Bの詐欺によって、A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において、正しいか否かを答えよ。
Cが当該建物を、詐欺について善意無過失のDに転売して所有権移転登記を済ませても、Aは詐欺による取消しをして、Dから建物の返還を求めることができる。
(誤)
詐欺による取消しは善意無過失の第三者には対抗できません(民法96条3項)。
Cより建物の譲渡を受けたDは善意無過失の第三者であるため、Aは詐欺による取消しを対抗することができず、建物の返還請求はできません。
Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Bが、Aや媒介業者の説明をよく聞き、自分でもよく調べて、これなら住宅が建てられると信じて買ったが、地下に予見できない空洞(古い防空壕)があり、建築するためには著しく巨額の費用が必要であることが判明した場合、Bは、売買契約を錯誤によって取り消すことができる。
(正)
住宅用地の取得という契約の目的に照らすと、住宅建築に大きな支障となる地下空洞があった事実は要素の錯誤に当たります。
Bは媒介をした宅地建物取引業者の説明(重説等)をよく聞き、自分でも調べたので重過失はありません。
よって、Bは錯誤を主張して売買契約を取り消すことができます。
A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された場合における次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Bは、甲土地は将来地価が高騰すると勝手に思い込んで売買契約を締結したところ、実際には高騰しなかった場合、動機の錯誤を理由に本件売買契約を取り消すことができる。
(誤)
動機の錯誤で取り消しをするには、その事情が明示または黙示に表示されていることが要件となっています(民法95条2項)。
本肢の場合、思い込んでいただけであり相手方に動機が明示または黙示に表示されたとは言えないため、取り消しを行うことはできません。
Aが、Bの詐欺によって、A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
AがCに所有権移転登記を済ませ、CがAに代金を完済した後、詐欺による有効な取消しがなされたときには、登記の抹消と代金の返還は同時履行の関係になる。
(正)
詐欺により売買契約が取り消された場合、契約解除に伴う双方の原状回復義務は同時履行の関係になります。
【同時履行の関係にある】
・契約解除による原状回復義務
・弁済と受領証書の交付
・無効、取り消し後の原状回復義務
・請負の目的物の引き渡しと代金支払い
・建物買取権行使時の土地、建物引き渡しと代金支払い
【同時履行の関係にない】
・債務弁済と抵当権抹消手続き
・債務弁済と債務証書の返還
・敷金返還と建物明け渡し
・造作買取権行使時の造作代金支払いと建物引き渡し
AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。
(正)
第三者の詐欺により、売買契約が取り消された場合、登記抹消義務と代金返還義務は同時履行の関係となります
【同時履行の関係にある】
・契約解除による原状回復義務
・弁済と受領証書の交付
・無効、取り消し後の原状回復義務
・請負の目的物の引き渡しと代金支払い
・建物買取権行使時の土地、建物引き渡しと代金支払い
【同時履行の関係にない】
・債務弁済と抵当権抹消手続き
・債務弁済と債務証書の返還
・敷金返還と建物明け渡し
・造作買取権行使時の造作代金支払いと建物引き渡し
Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
売買契約に要素の錯誤があった場合は、Bに代金を貸し付けたCは、Bがその錯誤を認めず、取り消す意思がないときでも、Aに対し、Bに代位して、取り消すことができる
(誤)
表意者が錯誤によって取り消す意思がないときは、その相手方や第三者が錯誤による取消しを主張することができません(最判昭40.9.10※無効→取消し)
錯誤による取消しは表意者を保護するものであると解されているからです。
第三者Cが表意者Bに対する債権を保全する必要がある場合には、Bが錯誤を認めさえしていれば債権者代位権を行使して取り消しを主張できる旨の判例がありますが、本肢のように表意者が認めていないときはこの限りではありません。
最判昭40.9.10
表意者自身において要素の錯誤による意思表示の無効を主張する意思がない場合には、原則として、第三者が右意思表示の無効を主張することは許されない。
A所有の土地につき、AとBとの間で売買契約を締結し、Bが当該土地につき第三者との間で売買契約を締結していない場合に関する次の記述が、民法の規定において正しいか否かを答えよ。
Aが、Cの強迫によってBとの間で売買契約を締結した場合、Cの強迫をBが知らなければ、Aは売買契約を取り消すことができない。
(誤)
Cの強迫をBが知らなくても、Aは売買契約を取り消すことができる。
強迫による意思表示は、どんな場合でも取り消すことができます(民法96条2項)
本肢のケースは第三者による強迫で意思表示したものですが、もちろんこの場合で取り消すことができます。
また、転得者に対しても取り消しを主張することが可能です。
AがBに対し土地の売却の意思表示をしたが、その意思表示は錯誤によるものであった。
この場合、次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
錯誤を理由としてこの売却の意思表示が取消しとなる場合、意思表示者であるAがその錯誤を認めていないときは、Bはこの売却の意思表示を取り消すことができる。
(誤)
Bはこの売却の意思表示を取り消すことができない。
錯誤による取消しは表意者を保護する主旨があるので、取消しの意思表示ができるのは表意者に限定されます。
相手方がこれを行使することはできません(通説)。
A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された場合における次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
BがEに甲土地を転売した後に、AがBの強迫を理由にAB間の売買契約を取り消した場合には、EがBによる強迫につき知らなかったときであっても、AはEから甲土地を取り戻すことができる。
(正)
強迫による意思表示の取消しは、善意の第三者や善意の転得者にも対抗することができます(民法96条3項の反対解釈)。
よって、Eが強迫の事実を知らなかったとしても、AはEから土地を取り戻すことができます。
A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された場合における次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
AがBにだまされたとして詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消した後、Bが甲土地をAに返還せずにDに転売してDが所有権移転登記を備えても、AはDから甲土地を取り戻すことができる。
(誤)
詐欺による意思表示の取り消しをした者と、取り消し後に譲渡を受けた第三者は対抗関係に立ちます(大判昭17.9.30)。この場合、登記を先に具備したDが優先するため、売主Aは甲土地を取り戻すことはできません
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
AB間の売買契約が、Aが泥酔して意思無能力である間になされたものである場合、Aは、酔いから覚めて売買契約を追認するまではいつでも売買契約を取り消すことができ、追認を拒絶すれば、その時点から売買契約は無効となる。
(誤)
意思能力がない状態で行った法律行為は無効となります(民法3条の2)。民法改正により明文化された事項の1つです。
民法3条の2
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された場合における次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Bは、第三者であるCから甲土地がリゾート開発される地域内になるとだまされて売買契約を締結した場合、AがCによる詐欺の事実を知っていたとしても、Bは本件売買契約を詐欺を理由に取り消すことはできない。
(誤)
第三者詐欺の場合、相手方がその詐欺の事実につき知り、または知ることができた場合(悪意/有過失)に限り、意思表示を取り消すことができます
よって、AがCによる詐欺の事実を知っていれば、Bは本件売買契約を取り消すことが可能です。
民法96条2項
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
民法第95条本文は、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と定めている。これに関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
表意者自身において、その意思表示に瑕疵を認めず、民法第95条に基づく意思表示の取消しを主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の取消しを主張することはできない。
(正)
錯誤による取消しは表意者を保護するための規定ですから、表意者自身が意思表示の瑕疵を認めていない場合、第三者が取消しを主張することはできないとされています(最判昭40.9.10※無効→取消し)。
A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
Aが第三者Cの強迫によりBとの間で売買契約を締結した場合、Bがその強迫の事実を知っていたか否かにかかわらず、AはAB間の売買契約に関する意思表示を取り消すことができる。
AとBとの間で令和2年7月1日に締結された売買契約に関する次の記述が、民法の規定において、売買契約締結後、AがBに対し、錯誤による取消しができる場合は〇、できない場合は×を答えよ。
Aは、自己所有の腕時計を100万円で外国人Bに売却する際、当日の正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して「8,000ドルで売却する」と言ってしまい、Aの錯誤について過失なく知らなかったBが「8,000ドルなら買いたい」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
(×)
Aの「100万円で売りたい」という意思と、「8,000ドル×100円=800,000円で売る」という表示が食い違っており、20万円の違いは契約上重大なので表示の錯誤があります。しかし、Aの錯誤は重大な過失によるものであり、相手方Bは善意無過失ですから、Aは錯誤による取消しができません。
Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡する契約をした場合に関する次の記述が民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
BがAから所有権移転登記を受けていた場合でも、Aは、Bに対して、AB間の契約の無効を主張することができる。
(正)
通謀虚偽表示はそもそも無効です(民法94条1項)。
AからBへの所有権移転は効力を生じておらず、実体的有効要件を満たさないので登記は無効となります。
よって、Aは所有権移転登記を受けているBに対して契約の無効を主張することができます。
民法94条1項
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
A所有の土地につき、AとBとの間で売買契約を締結し、Bが当該土地につき第三者との間で売買契約を締結していない場合に関する次の記述が、民法の規定において正しいか否かを答えよ。
Aが、強制執行を逃れるために、実際には売り渡す意思はないのにBと通謀して売買契約の締結をしたかのように装った場合、売買契約は無効である。
(正)
実際に売買の意思がないのに、相手方と共謀して虚偽の売買契約をした場合、当該契約は「通謀虚偽表示」に該当し、無効となります
本肢のケースは、AとBが共謀し、実際に売買契約をしたように見せかけているため無効となります。
Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡する契約をした場合に関する次の記述が、民法の規定及び判例において正しいか否かを答えよ。
DがAからこの土地の譲渡を受けた場合には、所有権移転登記を受けていないときでも、Dは、Bに対して、その所有権を主張することができる。
(正)
通謀虚偽表示は無効ですから、AからBへの所有権移転の効力は生じていません(民法94条1項)。Dは所有者であるAから土地の譲渡を受けた者、Bは無権利者ですので、Dは登記なくしてBに所有権を主張することができます。