民法等4ー4 条件と期限と時効
条件とは
条件(じょうけん)とは、法律行為の効力の発生または消滅を将来発生するかどうか不確実な事実にかからせる附款をいう。また、そのような事実も条件と呼ばれる。
条件となる事実(条件事実)は、将来の成否が不明な事実に限られる。将来発生することが確実な事実は、期限として扱われる。(ただし、ある事実が条件であるか期限であるかの判別が容易でない場合もある。)
一般に、法律行為はその成立と同時に無制限にその効力を生じるが、当事者が法律行為をする際に、法律行為の効力に制限を付加する場合がある。このような法律行為の一部として付加された制限を法律行為の附款と呼ぶ。負担付贈与(553条)や負担付遺贈(1002条)における負担も附款の一種である。
条件に親しまない行為
法律行為の効力が確定的に発生することが要求されるような行為には、条件をつけることが許されない(条件に親しまない行為)。
(1) 身分行為
婚姻や養子縁組、認知、相続の承認・放棄のような身分行為に条件をつけることは、強行規定または公序良俗に反するために認められない。たとえば、相手の離婚を条件とする婚姻予約は無効である(大判大9.5.28)。
(2) 単独行為
相殺、解除、取消し、追認などの単独行為に条件をつけることは、相手方の地位を著しく不安定にするので、原則として認められない(相殺につき、506条1項)。例外として、条件の内容が相手方を不安定な地位に置くようなものでないときは、条件をつけることが許される。たとえば、一定期間内に債務を履行しないことを停止条件とする解除は、有効であると解されている。なお、遺贈に条件を付けることも可能である(994条2項参照)。
法律行為の効力の発生が将来発生するかどうか不確実な事実にかかっている場合を停止条件という。たとえば、「合格すれば報奨金を与える」という約束の「合格すれば」という部分、または、「合格」という事実が停止条件にあたる。
停止条件の成否確定後の効力
条件の成否が確定すると、条件付法律行為の効力が確定する。停止条件付法律行為は、条件が成就した時からその効力を生じ(127条1項)、条件が不成就に確定することにより、確定的に無効となる。
条件成就の効果は成就の時から生じ、原則として遡及しない。ただし、当事者の意思表示によって条件成就の効果をその成就前にさかのぼらせることが可能である(127条3項)。
解除条件
法律行為の効力の消滅が将来発生するかどうか不確実な事実にかかっている場合を解除条件という。たとえば、「退学したら奨学金の支給を止める」という約束の「退学したら」という部分、または、「退学」という事実が解除条件にあたる。
解除条件の成否確定後の効力
条件の成否が確定すると、条件付法律行為の効力が確定する。解除条件付法律行為は、条件が成就した時からその効力が消滅し(同条2項)、条件が不成就に確定することにより、確定的に有効となる。
条件成就の効果は成就の時から生じ、原則として遡及しない。ただし、当事者の意思表示によって条件成就の効果をその成就前にさかのぼらせることが可能である(127条3項)。
条件付権利とは
条件の成否が確定しない間、条件付法律行為の当事者の一方は、条件の成就によって一定の利益を受けるという期待を有する。
たとえば、停止条件付贈与契約における受贈者は、条件の成就により贈与を受けることができるという期待を有する。
民法はこのような期待を一種の権利として保護しており、これを条件付権利と呼ぶ。期待権の一種である。
条件付権利の侵害
条件付法律行為の各当事者は、条件の成否が未定である間は、相手方の利益を害することができない(128条)。
たとえば、停止条件付売買契約の売主が目的物を滅失・毀損したり、第三者に譲渡したりして将来の履行が不可能となった場合は、売主は債務不履行または不法行為にもとづく損害賠償責任を負う。
〔参考〕条件付権利の仮登記
停止条件付売買契約の売主が、目的物を第三者に譲渡した場合、第三者への譲渡は無効ではなく、買主(条件付権利者)と第三者とは対抗関係に立つ(先に対抗要件を具備した者が目的物の権利を取得する)。
この場合において、買主が第三者より先に仮登記によって自己の権利を保全しておけば、条件成就後に本登記をすることによって、仮登記以後になされた売主の処分行為の効力を否定することができる。
条件付権利の処分・相続・保存・担保提供
条件付権利は、一般の規定に従って、処分、相続、保存ができ、また、これに担保をつけることができる(129条)。
取得時効
物を一定期間継続して占有するとその物の権利を取得できること
時効の成立によって権利を取得する
下記に該当するものは時効取得できる
・所有権
・地上権
・地役権
・不動産賃借権
(継続的用益という外形的事実が存在し賃借の意思に基づくことが客観的にヒョイ右舷されているとき)
(他人の家に住み続け、そのか間も賃料を支払い続けているような時に賃借権の時効取得が認められる)
時効期間
【民法 第162条】
①20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
②10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
・占有開始時に善意無過失の場合は10年
・善意有過失・悪意の場合は20年
この期間、占有を継続すると権利を得ることができる
※占有開始時期には善意無過失だったが、途中で他人のものだと気づいた(悪意)場合
→占有開始時に善意無過失であれば、時効期間は10年
※占有の開始時期から期間を計算する、この計算を始める時点を「起算点」という
所有権の取得時効
【民法 第162条】
①20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
②10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
※「所有の意志をもって」とは、あくまでも自分の所有物であるかのように平穏かつ公然と占有するケースを表す
所有の意思の有無は主観的にではなく、占有取得の原因事実により、外形的・客観的に判断される
(例)
売買契約で家を取得した場合
客観的にその家を「自分のもの」として持つことになる
これは「所有の意思がある」と判断できるので、取得時効にかかる
※借りて住んでいる場合は所有権の取得時効には含まれない
(例)
Bの家をAが借りている場合
これは借りているのであり、占有しているわけではない
客観的に「他人のもの」として持っている状態
これは「所有の意思がある」とは言えないので、Aは所有権を時効取得することはできない
※所定の年数を自身で占有し続けなければならないという決まりはなく、他人に貸していたとしても占有を継続したものとみなされる
※占有を継続すれば取得時効が成立するので、一筆の土地の一部のみの取得時効も認められる
占有の承継
AはC所有の土地について、善意無過失で占有を開始した
7年後に、AはBにこの土地を売却した
Bはこの土地が、実はCの所有であることを知っていた(悪意)
Bはあと何年この土地の所有を続ければ、時効取得することができるか??
⬇︎
・占有開始時に善意無過失の場合は10年
・善意有過失・悪意の場合は20年
時効期間は上記のように定められているので、Bは占有時に悪意であるので、Bの占有だけを考えると20年間が必要
⬇︎
しかし、Bより前の占有者Aからの占有をBが引き継いでいる状態なので、
BはAの占有期間も合わせて主張することができる
※占有を承継するときは、その瑕疵も一緒に引き継ぐ
ここでいう「瑕疵」は善意無過失や悪意等のこと
Aは占有開始時に善意無過失のため、BはAが占有開始時の善意無過失と、Aが占有していた期間の7年を承継することになる
善意無過失の場合の時効取得は10年間なので、Bはあと3年占有すれば、取得時効が完成する(Aが占有していた7年間と合わせて10年となる)
時間の経過によって、ある権利が消滅してしまうことを指す
債権と所有権以外の財産権が、時効により消滅する
下記のものは時効により消滅する
・金銭債権等を請求する権利(債権)
・地上権
・地役権
・不動産賃借権
一般的に10年が経つと消滅時効が成立する
一定期間が経過しただけでは、時効の効果は発生しない
当事者の援用が必要(時効利益を受ける意思表示が必要)
※所有権は消滅時効にかからないので注意
⬇︎
(具体例)
本人Aが自宅ではない、実家のある土地を相続した
Aはこの土地を10年間見に行かずに放置していたが、それによって土地の所有権が消えることはない
(毎年固定資産税も課税されており、ただ使用していないだなので、所有権は土地所有者のAにあるのが当然)
もし所有権に時効があって、その土地を使用していなければ所有権が消滅するとなれば、公平性が保たれない
このような状況があるため、所有権は消滅時効にかからない
※所有権が消滅する場合
⬇︎
本人Aが、上記の土地を30年間放置していた
その間にBがその土地に建物を建てて20年以上住み続けたため、取得時効が完成した
Bの取得時効の完成により、Aの所有権は奪われることになる
※この場合は、あくまでBの取得時効の成立によって、Aの所有権が奪われたのであって、
消滅時効によって所有権が消えたのではない
「所有権は消滅時効にかからない」という意味を理解しておくこと
消滅時効の時効期間と起算点
どんな権利が、どれぐらいの期間で消滅するのか
債権が消滅する時効期間
原則
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
②権利を行使することができる時から10年
※5年か10年のどちらか短い方
例外
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求は
債権者が権利を行使できることを知った時から5年
権利を行使することができる時から20年
※5年か20年のどちらか短い方
債権又は所有権以外の財産権が消滅する時効期間
(地上権、永小作権、抵当権等)
権利を行使することができる時から20年
※前述の通り、所有権は消滅時効にかからない、かかるのは取得時効のみ
※抵当権は、債務者および抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない
※権利を行使できる時からカウントするのはなぜか??
権利を行使できるのに、それをしないのは「権利の上に眠っている」と言える
権利の上に眠っている人は保護するに値しないと判断されるので、いつから眠っていたかが基準になる
いつから権利を行使できるか
・確定期限付きの債権(10月1日に代金を支払う)
→ 期限が到来したとき
・不確定期限付きの債権(父が死んだら代金を支払う)
→ 期限が到来したとき
・停止条件付きの債権
→ 条件が成就したとき
・期限の定めのない債権(売買の目的物の引き渡し時期を定めていない)
→ 債権が成立・発生した時
判決で確定した権利の消滅時効
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利の消滅時効期間mは、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、確定の時に弁済期の到来していない債権を除いて10年になる
判決などの後、それを放置した場合に、短い期間で時効消滅を認めると、
せっかく訴訟を提起して、裁判官が判断を下したことが無駄になってしまうため、10年という長い期間が定められている
時効の完成猶予と更新
①時効の完成猶予とは
その期間は時効が完成しない
時効の進行中に訴えが提起され、権利行使の意思が明らかになった場合等に認められる
・時効の完成猶予の事由
裁判上の請求・仮差し押さえ・催告・協議を行う旨の合意
これらの手続事由が終了するまでの期間は、時効は完成しない
催告の場合、催告の時から6ヶ月経過するまでは、時効は完成しない
②時効の更新
時効が新たにその進行を始めること
確定判決によって権利が確定した場合等に認められる
更新が生じると、それまで進行していた時効期間はリセットされる
・更新事由
裁判上の請求や承認などがある
承認(借金があることを認めた)の場合、時効は承認の時から新たにその進行を始める
場合別の時効の完成猶予と更新事由
裁判上の請求・支払い督促等
・時効の完成猶予
裁判上の請求等の手続事由が終了するまでの間は、時効は完成しない
(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合は、その終了の時から6ヶ月を経過するまでは時効は完成しない)
・時効の更新
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した時は、時効は、裁判上の請求等の事由が終了した時から、新たにその進行を始める
承認
・時効の更新
権利の承認があった時は、時効は、その時から新たにその進行を始める
※承認をするには、相手がたの権利についての処分につき、行為能力の制限を受けていないこと、又は権限があることを要しない
仮差し押さえ等
・時効の完成猶予
仮差し押さえ等が終了した時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は完成しない
催告
・時効の完成猶予
催告の時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は完成しない
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効力を有しない
協議を行う旨の合意
・時効の完成猶予
権利についての協議を行う旨の合意が、書面又は電磁的記録でされた時は、一定の時までの間は時効は完成しない
一定の時(例)→合意があった時から1年を経過した時
未成年者
・時効の完成猶予
(例)
時効の期間の満了前6ヶ月以内の間に、未成年者又は成年被後見人に法定代理人がいない時は、その未成年者が行為能力者となった時、又は、法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでの間は、その未成年者等に対して、時効は完成しない
時効完成の効力
1 時効の利益を受けるためには
時効の援用が必要
時効の援用→私は時効の効果を受けますと告げること
※時効の援用ができるのは当事者のみ
※時効の恩恵を受けるかどうかは、当事者の意思に任されている
※消滅時効の場合に援用ができる人は??
権利の消滅について政党な利益を有する者が援用できる
「債務者」
「保証人」
「物上保証人」その債権の担保として抵当権が設定されている場合
「第三取得者」その債権の担保として抵当権が設定されている場合
※消滅時効の場合に援用ができない人は??
後順位抵当権者は先順位抵当権者の非担保債権の消滅時効を援用することができない
2 時効の援用の効力はいつから発生するか
起算日に遡って発生する
(例)
取得時効の場合なら、要件を満たす「占有を始めた時」から、時効取得者のものになる
3 時効の利益の放棄
「時効の利益を受けません」と告げること
・時効の完成前に放棄することはできない
時効制度が無視されることのないように、時効の完成前には、時効の利益の放棄はできないことになっている
※時効完成前に、特約として「時効の利益を放棄すること」を約束していても、その特約は無効
・時効の完成後に放棄をする時は
時効の完成後に、当事者が時効の利益を放棄することが原則
その効果は、各当事者の意思が尊重されることが重要視されている
そのため、時効の利益の放棄の効果は、放棄した者との関係でのみ生じる
消滅時効の完成後に、重たる債務者が時効の利益を放棄した場合でも、別途、保証人は時効を援用することができる
4 消滅時効の完成後に債務者が債務の承認をした場合
消滅時効の完成後に、債務者が債務の承認をした場合は、もし債務者が時効完成の事実を知らなかったときでも、信義則上、消滅時効を援用することは許されない
この場合、債権者は「債務者はもう時効の援用をしないだろう」と考えるのが普通だから
⬇︎
消滅時効が完成した後に
債務者は自身の債務を承認した(お金を返すなどの責任があることを認めた)
債務者が時効が完成して、もう支払いをしなくてもいいという事実を知らなくても、
債権者の方は、「債務者は自身には支払いをする義務があると認識している、支払いをするつもりがある」と判断するので、
後になって「やはり時効が完成していたから、支払いたくない」と債務者が主張することは認められていない