民法等2−1 債務不履行・契約の解除・手付け
【債務不履行】
債務→義務のこと
履行→義務を果たすこと
債務不履行→義務を果たさないこと
同時履行とは
売買や賃貸借は、契約の当事者の双方が互いに対価的な債務を負担している(双務契約)ので、特約のない限りは、片方の債務だけ先に履行させるのは不公平と言える
・家を貸す人Aと家を借りる人Bの関係の場合
AはBからもらう賃料に見合った物件を貸さなければならない
BはAから借りる物件に見合った賃料を支払わなければならない
家を借りるのと賃料の支払いは同時に行われるべきで、賃料が提供されていないのに家だけ先に引き渡したり、家が提供されていないのに賃料だけ先に支払うのは不公平と言える(この2つは同時に履行すべきとされている)
これが「同時履行」の関係
同時履行の抗弁権
双方契約などの同時履行の関係にある契約については、公平の見地から、当事者の一方は、相手方が債務の履行を提供するまでは、自分の債務を拒むことができる
この権利が「同時履行の抗弁権」
(例)
売主A は買主Bに3000万円で家を売ることにした
売主Aは物件の引き渡しや登記の移転をしていない状態で、買主Bに3000万円を支払えと迫った
買主Bは「家の引き渡しと登記をしないと、代金は支払わない」と、売主Aの要求を拒絶することができる
※売主Aが義務を果たさない場合の、それに変わる損害賠償の義務についても、同時履行の抗弁権は主張できる(最近の改正)
※第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合の、当事者双方の変換義務についても、同時履行の抗弁権は認められている
債務不履行→債務が履行されないこと
義務を果たさないことで損害賠償が発生する
要件
- 債務が有効に成立していて、弁済期にあるにも関わらず、債務の本旨に従った給付をしていない
- 債務者の責に帰すべき事由(故意・過失)がある
- 損害が発生している
効果
原則:実際に生じた損害について損害請求できる
例外:
1 損害賠償額の予定に基づく請求3 裁判所は損害賠償予定額を増減できない
4 違約金は損害賠償額の予定と推定される
(例)
買主Bは売主Aから家を買った
約束の期日になっても引渡しをしてもらえなかった
やむを得ず買主Bはマンションを借りて住んでいる
買主Bがマンションを借りなければならなくなったのは、売主Aが義務を果たさなかったため(=債務不履行)
買主Bは仮住まいしているマンション代を、売主Aに請求することができる
※買主Bは売主Aに対して損害賠償の請求ができる
※買主Bは売主Aに対して契約の解除ができる
履行遅滞→履行が遅れること
履行遅滞の要件
1 履行は可能だが、履行すべき時に遅れたこと
いつから遅れたと判断するのかが重要
2 遅滞が違法であること
自分も義務を果たしていない場合は、相手方に同時履行の抗弁権がある状態
この状態では、相手方が遅れていることを違法とは言えない
履行遅滞と認められるには、自分の義務を果たしていなければならない
(相手方に同時履行の抗弁権を主張させないようにしておく)
履行遅滞となる時期
・ 確定期限債務
→8/12から履行遅滞
①Aが父の死亡を知ったときから履行遅滞
履行遅滞の要件
履行期に履行が不可能であること
※不能かどうかは、債務の発生原因や取引上の社会通念に照らして判断される
履行遅滞の効果
債務者が債務を履行できない時
原則として
1 損害賠償の請求ができる
2 契約の解除ができる
履行不能に基づく解除は、相当な期間を定めた催告は不要
※履行できないとわかった時点で、すぐに解除できる
・損害賠償請求の目的は
債務不履行と相当因果関係にある損害の賠償をさせること
※相当性の判断は、通常の事情と特別の事情を基礎に判断される
(特別の事情→債務者が債務不履行の時に予見すべきであった事情)
・過失相殺
債務不履行、それによる損害の発生、損害の拡大に関して、債権者に過失が会った時
契約の当事者からの主張がなくても、裁判所は職権でこれを考慮して、損害賠償の責任とその金額を定めることができる
(公平性を図るため)
・損害賠償の予定
損害額の算定を巡って争いになるのを防ぐために、事前に損害賠償額を決めておくこと
債権者は、損害の発生原因とその額を証明しなくても、予定した賠償額を請求できる
※違約金は、損害賠償額の予定と推定される
金銭債務
お金を支払う義務のこと(買主の代金支払い義務など )
※家の引き渡しなどの義務とは異なり、特殊な扱いがされる
1 効果の特則
損害賠償として請求できる額は「利息相当分」
・お金の支払いが遅れた場合、利息分の損害が生じる
・この金額は債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率で計算する
※契約当事者が約定でこれより高い利率を決めている時は、その利率になる
(法定利率は年3%、3年に1度見直される)
2 要件の特則
①損害の照明は不要(利息相当分の請求は決まっているため)
②金銭を支払う義務は履行遅滞のみが認められる
※お金が完全に消滅することはないので、遅れても支払いは可能という考え方
③債務者は不可抗力をもって抗弁とすることができない
※過失がなくても履行遅滞の責任を負わなければならない
【契約の解除】
1 法定解除
法律で定められている場合
2 約定解除
当事者が契約(特約)によって解除権を設定する場合
3 合意解除
双方合意のもとに契約を破棄する場合
○解除の方法
解除の意思表示
AとBが家の売買契約を結んだ
しかし買主のBが代金を支払わないので、売主Aは契約を解除したい
この時Bの承諾は必要か?
⬇︎
Aは解除権を有しているので、相手方Bの承諾がなくても解除できる
※一度解除の意思表示をしたら、撤回できない
解除不可分の法則
当事者の一方が複数存在するときは、解除は全員から行わなければならない
当事者の一方が複数存在するときは、解除は全員に対して行わなければならない
※複数いる当事者の1人について、解除権は消滅した場合、他の者の解除権も消滅する
催告解除
相手方に相当の期間を定めて催告をし、その期間内に履行されなければ契約を解除できる
催告をしてから、一定の期間が過ぎれば解除できる仕組み
無催告解除
下記の3つの場合は、催告せずに直ちに契約の解除ができる
①債務の全部の履行ができないとき
②債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
③契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ、契約をした目的を達することができない場合(定期行為)に、債務者が履行をしないで、その時期を経過したとき
履行できない、履行するつもりがない、契約の目的を達成できない
どれも催告して待っても意味がないので、すぐに解除できる
○解除の効果
当事者間での効果
・売主Aと買主Bが家の売買契約を結んだ
買主Bが代金を支払わなかったので、売主Aは契約を解除した
⬇︎
この場合の契約解除の効果は、当事者AとBの間で、最初からなかったことになる
・もし買主Bが代金の一部を支払っていた場合
売主Aは受け取ったその代金を買主Bに返さなければならない(原状回復)
⬇︎
契約を解除すると原状回復義務が生じる
お互いの原状回復義務は、同時履行の関係にある
※金銭を受け取った売主Aは、受領の時からの利息をつけて返還しなければならない
(Aはお金を借りているのと同様に、他人のお金による利益を得ていると考えられる)
・買主Bが家の引き渡しを受けた後に、契約が解除された場合
⬇︎
買主Bはその家を返還しなければならない
その家の引き渡しを受けて以降に生じた果実や使用利益も返還しなければならない
(家を他の人に貸して受け取った賃料など)
※解除をしても、損害が発生していれば、損害賠償請求もできる
・第三者に対する効果
売主A 買主B 転得者C(第三者)買主Bは売主Aから買った土地を第三者Cに転売した
Cは引き渡しを受け、登記も済ませた
その後、買主Bの代金不払いを理由に、売主Aがこの契約を解除した場合
売主Aは転得者Cに対して土地の返還を請求できるか?
⬇︎
売主Aは土地の返還を請求できない
解除前の第三者の権利を害することはできない
※第三者Cの権利が保護される要件
登記を備えていること
(第三者Cの善意、悪意は無関係)
??なぜ善意、悪意が関係ないのか??
買主Bに債務不履行があっても、売主Aが契約を解除するとは限らない
CがBの債務不履行を知っていた(悪意)としても、その契約がどうなるかの結果はAの判断で変わるので、知っていることに意味がない
(問題)正・誤
売主Aと買主Bが甲土地の売買契約を締結
代金2/3と引き換えに所有権移転登記手続きと引き渡しを行なった
その後買主Bが残金を支払わないため、売主Aは適法に甲土地の売買契約を解除した
この場合において、売主Aの解除前に、買主Bが第三者C甲土地を売却した
またBからCへ所有権移転登記がなされた
第三者CはBのAに対する代金債務に不履行があることを知っていた場合においても、Aは解除に基づく甲土地の所有権をCに対して主張できない
⬇︎
正
第三者Cは登記を備えている
第三者が善意でも悪意でも保護されるので、AはCに対して所有権を主張できない
解除権を行使できる期間
・期間には定めはない
・解除権を有する側が解除をしないときは、その相手方からは、相当の期間を定めて解除するかどうかの催告をすることができる
・その期間内に解除の通知を受けないとき、解除権は消滅する
※解除される側の不安定さを解消するために催告権がある
※解除権が消滅する→解除することができなくなるという意味
【手付け】
売買契約などを結んだ時に、相手方に支払うお金などのこと
○手付けの性質
手付け3種類
・証約手付け
契約が成立した証として払われる手付けのこと
・解約手付け
その手付けの交付によって、契約を解除できるようにするもののこと
約定解除権の設定を意味する
・違約手付け
約束違反の場合には没収されるという了解の下で交付される手付けのこと
※当事者がこの手付の意味を取り決めていない場合は、解約手付けと推定される
(反証がない限り、一応は解約手付けとして扱われる)
売主A 買主B 別の買主C 別の売主D
AはBに家を3000万円で売る契約を締結した
この時BはAに、解約手付けとして300万円を交付した
1 手付け解除の方法
①売主Aから契約を解除する場合(売主が解除する場合は倍返し)
その後、CはAに家を4000万円で買いたいと申し出た
この場合Aは、Bから受け取った手付け300万円と、Bに対する償いとして300万円の計600万円をBに渡すことで、Bとの契約を解除できる
手付け倍返し(手付けの倍額を渡す)ことでBとの契約を解除できる
※Aは手付けの倍額の600万円を現実に提供しなければならない
②買主Bから契約を解除する場合(買主が解除する場合は手付け放棄)
買主BはAと契約を結んだあと、Dの家が2000万円で売られているのを発見した
BはDの家を気に入ったので、そちらを買いたい
この場合、BはAに支払っている手付けの300万円を放棄すれば、Aとの契約を解除することができる(手付放棄)
2 手付け解除の時期
??いつまでなら、解約手付けによる解除が可能か??
⬇︎
「相手方が履行に着手するまで」であれば解除ができる
※契約から生じた義務を行った時が履行の着手
(買主→代金の一部を支払う 売主→家を引き渡す、登記を移転する)
??なぜ履行に着手したら、手付けによる解除ができないのか??
⬇︎
相手方が履行に着手しているのに、解約手付けによる解除を認めてしまうと、相手方の苦労が無駄になるから
??履行に着手したら、絶対に手付による解除はできないのか??
⬇︎
着手した者が、自らの苦労は無駄にしても構わないから解除したいとなった場合は、
その相手方がまだ履行に着手していなければ、手付解除はできる
(自分→履行に着手 相手方→まだ履行に着手していない この場合だけ解除できる)
3 手付解除の効果
手付によって解除した場合、損害賠償請求はできないし、損害賠償の請求をされることもない(債務不履行ではないから)
??債務不履行の事態が起きたら??
それに基づいて解除することができるし、損害賠償の請求もできる
※債務不履行による損害賠償請求と、解約手付の額とは無関係
(損害賠償請求は解約手付の額に制限されない)