民法等1−1 契約の種類と契約の成立要件
【契約の全体像】
○契約とは
大事な「約束」のこと
○契約の成立
契約は「申込」の意思表示と「承諾」の意思表示が一致すると成立する
・「この土地を1000万円で売ります」という売主がいて、
買主が「その土地を1000万円で買います」と、売主に伝えると契約が成立する
・ 契約は書面で契約するのが一般的
・ 口約束も契約になる
ex.
1月10日に口約束で土地の売買契約
1月20日に契約書に双方が記名押印をした場合
1月10日が契約成立日になる
○契約の効果
契約が成立すると契約した当事者(上記の場合、売主と買主)に「権利」と「義務」が生じる
・売主の義務→ 土地を引き渡す義務
・売主の権利→ 代金を受け取る権利
・買主の義務→ 代金を支払う義務
・買主の権利→ 土地を受け取る権利
「代金を受け取る権利」と「代金を支払う義務」はセット
「土地を受け取る権利」と「土地を引渡す義務」はセット
契約の内容は、原則、当事者の意思で自由に決めることができる→「契約自由の原則」
○契約の分類
・諾成契約
当事者の合意だけで成立する(売買契約・賃貸借契約)
・要物契約
合意の他に物の引き渡しがないと成立しない契約
・有償契約
対価等の支払いのある契約(売買契約・賃貸借契約)
・無償契約
対価等の支払いのない契約(贈与・使用貸借契約)
・双務契約
契約当事者双方が、それぞれ対価的な意義を有する債務を負担しあう契約のこと
※お互いが義務と権利を持っている
・片務契約
贈与や使用賃借のように、一方当事者のみが債務を負う契約
※片方だけに義務や権利がある
【贈与】
ある人が相手方に無償で財産権を与える意思表示をし、相手方がこれを受諾することによって成立する契約
549条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる
贈与契約は、片務・諾成・無償契約
※片方だけに義務があり、当事者の合意だけで成立し、対価等の支払いがない契約
「自己の財産を」(549条)となっているが、他人の財産であっても贈与契約は有効に成立すると解されている
○贈与の撤回
550条 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない
・贈与契約の成立には書面は不要
・書面によらない贈与はいつでも撤回することができる(550条本文)
・ただし、履行の終わった部分については撤回できない(550条ただし書)
※不動産が贈与された場合、引渡しか登記がなされていれば、履行が終わったと解されている
※贈与の意思を明確にさせることと、贈与者に再考の機会を与えることで軽率な贈与がなされることを防止するために、贈与の撤回が認められている
○贈与者の義務
・財産権移転義務
贈与者は、受贈者に財産権を移転する義務を負う
不動産であれば、引渡や登記などをすることが義務
・担保責任
551条1項 贈与者は、贈与の目的である物または権利の瑕疵または不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵または不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。
・贈与は無償で行われることから、贈与者は原則として贈与の目的である物や権利の瑕疵または不存在について責任を負わない(551条1項本文)
・ただし、贈与者がその瑕疵または不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、担保責任を負う(551条1項ただし書)
○特殊な贈与
・定期贈与
552条 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者または受贈者の死亡によって、その効力を失う。
定期贈与とは、一定の時期ごとに一定の給付をする贈与契約(親から子供への仕送り等)
このような契約は、当事者間の密接な人間関係を前提に締結されることが多いため、
当事者の一方または双方が死亡したときは、贈与契約自体の効力が失われる(552条)
○負担付贈与
551条2項 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
負担付贈与とは、受贈者に一定の負担を負わせる贈与契約のこと
(土地を贈与する代わりに贈与者の老後の面倒をみるようにするといった場合)
負担付贈与においては、当事者は実質的には負担の限度で対価関係に立つので、
贈与者はその負担の限度で担保責任を負わなければならない(551条2項)
負担付贈与については、双務契約に関する規定が準用されている(553条)
○死因贈与
・死因贈与とは
→贈与者の死亡によって効力が生ずる贈与契約のこと
(AB間において、Aが死んだら、この土地をBに贈与するといった場合)
※死因贈与によく似たものとして、遺贈(964条、985条以下)がある
・遺贈とは
→遺言によって遺産の全部または一部を無償または負担付で他人に与える行為
・遺贈は単独行為
・死因贈与は契約
※この2つは似ているけど違うもの
【使用貸借契約】
○使用貸借とは
→借主が無償で物を借りること
タダで借りているため借主の立場は弱くなる
○使用貸借の対抗要件
貸主が目的物を第三者に譲渡した場合、借主は第三者に対して使用貸借を対抗することができない
・賃貸借との比較
賃貸人(貸してる人)が目的物を第三者に譲渡した場合、賃借人(借りてる人)が賃借権の登記をしていれば賃借人(借りてる人)は第三者に賃借権を対抗することができる
(借りて住んでるから、出て行きません!!と言える)
※賃料を支払っていたり、対価を支払っているので立場が強い 権利を主張できる
○使用貸借の解除
借主が無断転貸した場合は、事情に関わらず、貸主は契約を解除することができる
(借主が第三者に土地を転貸した場合は、貸主は契約を解除することができる)
・賃貸借との比較
賃借人(借りてる人)が無断転貸をした場合、背信的行為があると認めるに足らない特段の事情があれば、賃貸人(貸してる人)は解除することができない
※背信的行為があると認められる可能性が高い例
→賃借人が自分の恋人や友人に転貸(又貸し)し、その恋人や友人が賃料を支払っていた
※背信的行為があると認めるに足らない例
→もともと賃借人と同居していた親族に対して転貸(又貸し)していた
○使用貸借の必要費
借主(借りてる人)が通常の必要費を支出したら
→貸主(貸した人)に対して費用の償還請求をすることができない
※通常の必要費は、借主が自分で払うお金なので、かかった費用を貸主からもらうことはできない
借主(借りてる人)が通常の必要費以外の支出をしたら
→貸主(貸した人)に対して費用の償還請求をすることができる
※通常の必要費以外は、 借主が支払う必要のないお金なので、貸主からもらうことができる
・賃貸借との比較
賃借人(借りてる人)が支出した必要費は、直ちに賃貸人(貸してる人)に償還請求をすることができる
※必要費も必要費以外も、借りてる人は払わなくていいお金、貸してる人が払うよ
○使用貸借の貸主が死亡した場合
借主(借りてる人)が死亡した場合
→使用貸借契約は終了
※この場合、相続人への権利の承継は認められない
なぜか?→使用貸借はタダで使わせてあげる約束
貸主と借主の人間関係があって、初めて成立する
借りてる人が死んでしまったら、そこで2人の約束はおしまい
貸主(貸してる人)が死亡した場合
→使用貸借は終了しない 継続して使用可能
※急に契約終了になると、借りてる人が困るから
・賃貸借との比較
賃借人(借りてる人)が死亡した場合、賃借権は相続人に承継される
○使用貸借の期間 契約の終了
使用貸借が終了する事由5つ
1 設定された期限が来たら終了
2 目的に従った使用・収益が終了した時
3 使用・収益に足りる期間(相当期間)が過ぎたら終了
4 解約申入があったら終了
5 借主(借りてる人)が死亡したら終了
※上記5つのうち、時期が明確でない3.4.について注意
3.使用・収益に足りる期間(相当期間)に関して
→貸主(貸した人)が相当期間が経過したと判断し、解約申入をすれば契約は終了する
だいぶ長いこと貸してたな〜そろそろ返してください→契約終了
4.解約申入に関して
→使用貸借の目的を定めていない場合は貸主はいつでも契約を解除することができる
いつまで貸すよって決めてないから、貸してる人は返して欲しいときに、返してって言えるよ
借主側からはいつでも解約の申入をすることができる
借りた人はいつでも好きなときに契約を終了させられる 期限より早く返してもいいよ
○使用貸借に関する疑問
・使用貸借自体に登記があっても第三者に対抗できないのか?
→できない
使用貸借は貸主と借主の当事者間でのみ効力をもつ契約
登記があっても契約書があっても、第三者には対抗できない
【契約の有効・無効・取り消し】
・有効→効果があること
・無効→効果がないこと
※賭博や愛人契約などの公序良俗違反の契約→無効
※上記のような社会的な妥当性のない契約は無効であり、その無効は誰に対しても主張できる
社会的に良くないことをしている人は、法律で守ってあげる必要がないよ
・取り消し
→一応は有効だが「取り消します」と言うことによって無効にすること
※取り消されない限りは有効
【契約の効力発生の要件】
○民法での「条件」とは
→将来発生するかどうかが不確実な事実によって
法律行為の効力が発生・消滅するかどうかを決める特約
○民法での条件の規定
ある出来事が起こることを「条件の成就」
条件成就によって法律効果を発生させるものを「停止条件」
法律効果を消滅させるものを「解除条件」
○条件たる出来事とは
①将来のものであること
②不確実なものであること
二つの要件を満たしているものが条件として認められる
「昨日、札幌の天気が雨だったら~」という約束
→仮に当事者が知らなかったとしても、一般的には既に発生した事実であることから、解除条件あるいは停止条件としてはふさわしくない
これは「既成条件」として別の取扱をすることになる(民法131条)
「私が死んだら~」という約束
その時期こそ不明であれ、将来必ず発生する事実であるので条件としては認められない
この約束は「期限(不確定期限)」として扱われる
【停止条件】
○停止条件とは
→とりあえず契約を締結するが、ある一定の事実が発生するまでその効力を生じさせないこと
→その条件発生まで法律効果を停止しておくこと
「独学で宅建に合格したら家をあげます」→これが停止条件付きの贈与契約
独学で宅建に合格することが→「停止条件」
家をあげることが→「贈与契約」
※宅建に合格するまでの間、家をあげるという効力を停止させるということ
○停止条件のポイント
1 条件付き契約の各当事者は条件の成否未定の間は
条件の成就によってその契約から生じる相手方の利益を害してはならない
2 条件の成否未定の間の当事者の権利義務の扱いは
普通の権利と同じく、処分・相続・保存することができる
そのために担保を供することができる
※ある物を債権の担保として提供することができる
3 条件の成就によって不利益を受ける当事者が、故意に条件の成就を妨げた場合
相手方はその条件を成就したものとみなすことができる
※条件が成就したと扱うかどうかは、相手方の選択次第
わざと悪いことをした方が損をするよ
4 条件の成就によって利益を受ける当事者が、不正にその条件を成就させた場合
相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる
※条件が成就しなかったと扱うかどうかは、相手方の選択次第
わざと悪いことをした方が損をするよ
5 正当な理由がなければ解除できない
停止条件も正式な契約であり、契約の効力が発生していなくても解除することはできない
6 停止条件付契約した契約者(当事者)が死亡した場合
その地位も相続の対象になる
・重要なポイント
宅建業法の8種規制の中の「自己の所有に属さない宅地建物の売買契約締結の制限」
※8種規制とは
売主が宅建業者で買主が宅建業者以外の場合に適用される、買主保護を目的とする制限のこと
(宅建業者はプロ、買主は一般人の素人、素人に不利益がないようにするための決まり)
「自己の所有に属さない宅地建物の売買契約締結の制限」とは
例えば、 宅建業者が停止条件付契約で契約した土地があるとする
停止条件付きの土地は、その条件が成就するかわからないため、買主にその土地を引き渡せるかどうかわからない
そんな不確定な土地を目的物として取引に供してはいけない
→宅建業法で停止条件付き契約した目的物を、自ら売主として契約を締結することは禁止されている